サイキックは34歳で結婚して35歳で子供を産むと言うんだが…
今でも、やっぱり結婚すれば良かったのかな、と、考えない日はない。彼氏と出会わなければ、私は今頃結婚の準備で忙しくしていたんだろうと思う。
国際結婚だから、普通の結婚以上に手続きが面倒で時間がかかる。きっとそういう面倒な手続き一切を私がなんとかしようとして、協力的でない元婚約者に腹を立てたりキレそうになったりしていたんだろう。
いや、そうじゃなくて意外と協力的な婚約者に感謝して見直していたのかも。
わからない。
選択しなかったことの結果は永遠にわからない。だから今の現実を受け入れるしかないのだけど。
私にとって悩み続けたことの最後の決定打は、元婚約者に触れられるのもキスされるのも嫌になってしまったことだった・・・
結婚して子供と一緒に一時帰国したり、彼の家族と過ごしたり、二人の生活の具体的なことは楽しく思い浮かべることができるのに。それは私が望んできた未来像でもあるのに。
けどそこへいたるまでの最初の一歩が踏み出せなくなってしまった感じだった。
そこを超えられないから、ずっと夢見ていた未来が実現しようとしているのに、結局立ち止まって見上げるだけで到達することができない。
もう手をつなぐことさえ違和感があって・・・だめだ、そう気付いたとき、苛立ちのような悲しさのような、不思議な感覚があった。
彼氏と出会わなければここまで違和感を持つことはなかったのだろうか。
それともこうなることは彼氏には関係なく、どちらにしても時間の問題だったのか。
結婚してから気がつくのではなく、する前に気付いたことを、彼氏と出会ったおかげだと感謝するべきなのだろうか。
それともせっかくの結婚を一時的な気の迷いで台無しにしてしまったと、あとで後悔することになるのだろうか。
- - - - - - - - - -
1年前の冬、私はダウンタウンにあるサイキック(占い師)に会いに行った。
彼は私のお気に入りのサイキックだ。信じる信じないは別として、彼の描写する私の未来像はいつもとてもポジティブなので、占ってもらうと元気になる。具体的なことをいろいろ質問してちゃんと答えが返ってくるのも楽しかった。ただの占いだとわかってても、不安なときに、夢がかなう未来を「絶対そうなる」と疑う余地のない事実として断言してくれる人がいるとなんだか心強くなる。
初めて彼に将来を予想してもらったとき私は32歳だったのだが、そのとき彼は、私が「34歳で結婚し、35歳で子供を産む」と言った。
翌年、もと婚約者の元婚約者にプロポーズされた。結婚は1年後ということになった。結婚して1年くらいしたら子供が欲しいなと元婚約者は言っていた。まさに34歳で結婚、35歳で子供、という予言どおりになろうとしていた。
「占いあたったねー、すごいすごい!」と周囲の友人たちは盛り上がった。
でも実は、サイキックがその予想をした半年後くらいに私はもう一度占ってもらっている。そのとき彼は、1度目の予想とはまったく違うことを言った。
それが1年前の冬のことだ。
当時は結婚したくて、でも元婚約者がちっともプロポーズする様子を見せず、悩んで落ち込んでいた。結婚の見込みがなければ別れよう、と思うのだがそう簡単に決断することはできない。あちこちの友人に相談した挙句、ついにサイキックにまで頼る気持ちになったのだった。
サイキックは私を覚えていた。そしてあれから私の運命が少し変わったと言った。
元婚約者はもうソウルメイトではない!と言う。結婚相手はほかにいる、と。
いったいどこにいるの?!と私はつめよる。地名を言ってくれたらすぐにでも飛行機に乗ってでもそこに行くよ!と言いたい勢いだった。
「黒い髪、黒い目が見える・・・」とサイキックは言う。
「今のボーイフレンドは、非常に優秀で将来も有望だが、ロマンティストではない。彼と結婚すると、たとえば子供が生まれるというとき彼は仕事を優先してそばにいてくれない。しかし、この未来のソウルメイトは違う。どこにいようと、あなたが必要とするときはほかのすべてをなげうってでもあなたに会いに来る。誰よりもあなたを大切にし、常にあなたのために気を配る、そんな人だ・・・」
私はしばし考えこんだ。たしかに、元婚約者は基本的に優しい人だけど、仕事も何もかもなげうって私のために来てくれる人ではない。そうだったら遠距離を3年続けたりしない!私のために何でもしてくれる人とはいえない・・・。私、今そんな優しい人がほかに現れたら、すぐに元婚約者と別れてその人を選んでしまうかもしれない。
サイキックと呼ばれる人がたいていそうであるように、彼はすべてを自信たっぷりに断言する。暗示能力が強いというか。だからサイキックの部屋にいるとき、私は彼の言うことをつい、すでに決まった事実として受け入れてしまう。
そうして私の中で、「黒い髪、黒い目のロマンチックな男性」像がみるみるうちに具体的にイメージされていく。さらにサイキックは言う。
「彼はすごくかっこいいけど、自分でその魅力にきづいていないタイプの男性だ・・・」
それって、女の理想だよね!とこのお告げについてあとで友人たちに教えたら、みんな声をそろえてそう反応した。かっこいいのは良いとして、それを意識してたりナルシストだったりもてるのをいいことに平気で浮気するヤツだったら嫌だ。かっこいいのに気付いていない男。最高かも。
そんな男性に私は、半年以内に出会うというのだ。半年後といえば8月。夏までにそんな出会いがあるとは。それまでに元婚約者とは別れてしまうっていうこと?そんなことが本当に私に起こるのかしら・・・。
その日はすっかり暗示にかかってサイキックの部屋を出た私だった。
しかし、しばらくして興奮が冷めてくると私は冷静に考え直すようになった。
「かっこいいけど自分で気付いてない」っていうのはつまり、女性の多くが夢見る男性像をサイキックが持ち出しただけなのでは、という気がしてきた。長いことつきあっている彼氏に対して「もうロマンチックじゃなくなってきたなー、優しさも足りない」と不満に思う女性はとても多い。そういう女性の心理をたくみに狙った演出だったのでは。
しょせん科学的根拠なんて何もないサイキックの占いだもの・・・
そのうち私はすっかりその気になっていた自分がおかしくなり、この占いのことはしばらく忘れていた。
半年、何事もなく過ぎた。8月が終わり、9月になって、私は元婚約者と婚約した。
衝撃的な出会いなどまったく思い当たらなかったし、このころはもうサイキックの言葉などどうでもよくなっていた。
婚約して幸せな気分でいろいろと予定をたてながら、ときどき「黒い瞳の私のソウルメイトはどこへ行ってしまったのかしら」と、冗談で言ったりはしていたけれど。
でも、後から思い返してみると、私は8月の始めに彼氏に出会っていたのだ。ただそれは仕事上毎日のように起こることのひとつに過ぎず、年齢的にも立場的にも自分の恋愛対象になる相手ではないと思っていたから、私はそれを出会いのひとつにカウントさえしなかった。
サイキックの二度目の占いは全然当たらなかったな。そう思っていたのに、婚約はやっぱり解消になってしまった。元婚約者はソウルメイトではない、と断言していたサイキック。あの言葉はやっぱり本当だったんだろうか?
私のベッドサイドテーブルに、彼氏と二人で撮った写真が置いてある。真顔になって正面を見る彼氏、そんな彼を見ると、私は今でもわずかに怖気づく。知り合ったばかりのころ、「こんな若い男の子には私のことなんておばさんにうつるのかなあ」と心配で、いつも少し距離を置いて話をしていたことを思い出す。無邪気な笑顔で「美樹ちゃーん」と抱きついてくる今の彼氏には、もうそんな距離は少しも感じないけれど・・・写真の中にいる彼氏は確かに、私が思わず怖気づく、若くてかっこいい男の子だ。
・・・かっこいいのに、自分でその魅力に十分気がついていない男の子。
どんなときも私のことを一番に考えて、私のためになんでもしてくれる人。とてもロマンティストの。
もちろん、彼は黒い瞳と黒髪を持っている(髪はちょっとアッシュブラウン系なんだけど?)。
彼がソウルメイトなのかな・・・・
今日も私は迷いながら考える。
やっぱり結婚すれば良かったのだろうか。それとも彼氏が私のソウルメイトだから、これは最初から決まった運命なんだろうか。
・・・・今でも、迷わない日はない。
(できすぎの話のように聞こえるけど、全部本当のことしか書いていない。ただひとつだけ全然違うポイントがあって・・・。サイキックは、私のソウルメイトは「イタリア系またはフランス系のアメリカ人」だと言ったのだ。日本人ではない、と断言してた・・・。うーん、やっぱりまだソウルメイトには出会ってないのだろうか、私?!)
スポンサーリンク
スポンサーリンク