2000文字のうざい彼氏自慢
年下彼氏の自慢を、うざくとも力を入れて書いてみたい。両手に持ったマティーニのグラスをこぼさないよう注意深く運んでいると、彼氏が立ち上がってグラスをうけとってくれる。
腕が長くて背の高い彼氏がマティーニグラスを手にしている。バランスをとろうとして一瞬、とても真剣な顔になる。今日は襟ぐりのすこしあいた黒いセーターを着ていて、形のいい鎖骨にからむようにティファニーのネックレスのチェーンが見え隠れする。年下の彼氏でありながら色気の漂う自慢の彼氏だ。
そんな彼氏はクラブハウスの暗い照明の下でまた一段とかっこよく見えて、向かい合っている私のほうがちょっと照れる。照れるというか緊張する。「こんな男の子が私の彼氏なんて、ほんとにいいのかな?」という、うまく実感できないような、夢だったらどうしよう、みたいな緊張感だ。
グラスの底のところにチョコレートシロップがたっぷりたまっていて、それがスパイラルの形にカクテルの表面までぐるっとまわって浮き出している、お菓子のようなこの「チョコレート・マティーニ」は私の大好きなお酒だ。
普通は甘すぎて男の子には受けが悪そうなこのお酒を、男の子なのに甘党の彼氏とは一緒に飲んで楽しむことができる。お酒も強いのに甘いものも大好きな彼氏が「おいしいー」と言いながらグラスに口をつけている様子・・・見ているだけで幸せになってしまう・・・可愛いなあ、って感じだ。
そういうとき、自慢の彼氏は表情が本当にあどけなくてまだ子供みたいだ。多分、そんなあどけない表情や態度は、年上の彼女である私といるときにしか見せないものなんだろうと思う。だって、客観的にみれば、それは24歳という実際の年齢にしては幼すぎる態度だ。
ところで、このあどけない顔と、服を脱ぐと実はかなりセクシーな体、という取り合わせってなんとも年上女性の心をかきたてるものなのだ・・・これじゃまるでロリコンの男女逆版だけど。手足が長くて顔が小さいので全体に細い印象を与える彼氏は、脱がせて見ると(?)実は肩や胸がすごくしっかりしていてさすが、もとヨット選手、という体格の持ち主。
初めてその服を脱いだときの様子を見たとき、彼氏はキッチンで上半身だけ裸のままミネラルウォーターをボトルから飲んでいた。ボトルの底を天井にむけてごくごく水を飲みながら、バスルームからのぞいていた私と目が合って「ん?なに?」というように首をかしげてみせた。私がクスクス笑いながら見ていたから。
もっと至近距離で触れたり抱きしめたりしていたのはその直前だったのだけど、それは暗くしたベッドルームの中でのできごとなので、そうやってちょっと離れたところから彼氏の全体像を、光のある場所で見たのは、そのキッチンが初めてだった。
日焼けしている体(ヨットをやめた今も、サーファー&ボーダーだから)に、シルバーのネックレスだけを身につけた上半身、勢い良くミネラルウォーターを飲む口元・・・ひと仕事(?)終えた若い男の子そのもの、という姿に私はすっかりみとれてしまって、そんな男の子が自分の腕の中にいたと思ったら嬉しくて、思わず笑ってしまったのだ。
本当に、恥もなにも捨てて「みとれてた」と言うしかない。男の子が、造形的に美しいということに、今まで私は大した価値を見出していなかった。きれいでいるのは女性側の役目、と考える主義だった。きれいでいて、ちやほやされるほうが、きれいな男の子をみてるよりよっぽど楽しいではないか・・・そういつも思っていた。
見ているだけで幸せ。そう感じたのは今まで元彼のことが最初で最後だった。もう私が相手にみとれるような恋愛はいいや、と思っていた。
でも、彼氏の場合はまたちょっと違うのだ。
私が笑っているのを全然理解できなくて、なに?と首をかしげる彼氏は、自分がどんな風に私の目にうつっているかわからない。私にとって彼氏がどんなに得がたいもので、どんなにまぶしく思うかわかっていない。
新しい彼氏って10歳年下なのね、と私が友人たちに報告したとき、彼女たちの最初の反応はまず驚き、次がほぼ例外なく「うらやましいー!若いー!」。もうここで思いっきり彼氏自慢が全開だ。
けっこう真剣に悩んでいた私にとって「うらやましいって、他人事だと思ってー。当事者は将来のこととかいろいろ不安なのになあ」という感じではあったけど、すっかり落ち着いて安定モードになった今は、自慢の彼氏を「ムフフ、いいでしょ」って言えてしまうかも。
しかし彼氏に言わせると、「美樹ちゃんの友達みんなに馬鹿にされないかなー、こんな若造で」と本気で心配らしいのだ。友達に会う機会があるときは、この服でいいかな?この髪型で大丈夫かな?と心配してなんとか背伸びしようとする。・・・流行にセンシティブでいることに必死でなくなってしばらくたつ私たちの世代にとって、彼氏がどんな服装をしようと、「ふーん、最近の若者トレンドはこんな感じなのね」と納得してしまうものだと思うのだが。彼氏はそういう視点は決して持たない。
ダイエットして痩せた、と言うと、彼氏の最初の反応は「これ以上綺麗にならないで、ますます俺とつりあわなくなっちゃうよー」というものだ。私は「若者にいれこんでいるおばさん風」にならないように必死でダイエットしたというのに、彼氏にそんな私の心理は全然わかっていないらしい。
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