彼氏と二人‥雨の恋愛劇場
彼氏が滞在する前日にタイミングよく生理が終わったように、神様は私たちが一緒に過ごす一週間を、雨と曇り空だけの毎日にした。? せっかくの一週間が雨続きだったなんて、ついてない!と普通なら思うだろう?
でも私たちにとっては、降り続ける小雨とぼんやり曇った空が、どこにも出かけずに部屋にこもっていることのちょうどいい言い訳となった。
素肌をシーツでくるんで、二人で雨の音に耳を傾ける。いっときお互いに夢中になっていて聴こえていなかった雨の音に、まるで初めて気がついたように、「まだ雨だね」「もう今日は出かけるのやめようか」なんて会話を、けだるい気分の中でひっそりと交わす・・・誰にも聞かれないとわかっているのに、小さなささやき声で。
どこからどこまでが一回、二回、なんて数えられない・・・昼過ぎから夕方までずっと続く、けだるいおしゃべりと、無言で激しいひととき。交互に、飽きもせず・・・何度も繰り返し。ああ……私って、恋愛体質な女だ。
私は抱き合ったときに見える彼氏の右肩の風景が好き。
ちょうど右耳のピアスが唇に触れるような距離にある。焦点がぼやけたあたりに固い肩の筋肉が、私を強く抱きしめるために力強く盛り上がっていて、その向こうにきれいな背中のラインが見える。
腕をまわすとしっかりと手応えのある胸の厚みも好き、その感触を楽しみながら、彼氏の少し伸びた髪が、うなじのあたりでくるんと沿っているのを見るのも好き。首筋に髪がかかるくらいの長さ、その毛先にキスしても彼氏は「くすぐったい」と言うのだ。なんて可愛いの!と思ったつぎの瞬間、手首をつかまれて攻められる体勢になっているのは私のほう。
そう、このギャップというか彼氏が急に男の子らしくなるときの表情に、私ははまっている。動物園の猿並み、いや猿以下、と自分たちでも認めているけど仕方ない。彼の肩ごしの風景を見るだけで、私は何度でもスイッチがはいってしまうのだもの。即物的な表現だけど、あまりにたくさん体から水分を分泌するもので、やたらと喉が渇く。
そういえばこういうことがずっと前にもあった、元彼という10年前にはまってしまった恋愛相手のことで、一日中泣いて泣いて、涙で水分を使い果たして水を何リットル飲んでも喉が渇いた。同じ水分不足でも、今回は幸せな乾きだなあ。
窓の外が薄暗くなるころ、おなかすいたね、と言って二人で昨日のディナーの残りのサラダをつまんだり、お茶をいれたりして、リビングのカウチの上で過ごす。時差ぼけしている彼氏が「うーん、まだ眠い」と言ってお茶の途中でもたれかかってきたりして、私もウトウトしたりして、やっぱり最後は二人でベッドルームに戻る。
「お買い物に行こう」とか「今日は美樹ちゃんの友達とお昼ご飯食べようよ」とか言い出すのは、いつも彼氏のほうだ。
私は彼氏と外出したりほかの人と一緒に会うのは気が進まない。えー、まだでかけたくないな・・・やだ、私彼氏くんを独り占めしたいもん、・・・そんな風にいつまでも二人きりを長引かせようとして、服を着ようとする彼氏の邪魔をしたりする。
私があまりにそんな風なので、彼氏はついに「俺のこと若い体だけが目当て?」なんて質問をする。半分冗談だけど、残りの半分は本気だからおかしい。おかしくて、可愛くて、なんだかいじらしくなる。
そうよ。体だけが目当てよ。と、わざと意地悪く言うと、どういうわけか彼氏は冗談で泣くふりとかしながら、ちょっと嬉しそうだ。本気で体が目当てだったらさすがに傷つくんだろうけど、冗談で言われるのは微妙に快感なのかも、男としては・・・「体が目当てなんて本望だ!」って感じなのかな。あるいは「俺の体に夢中にさせた!」っていう征服感?
一方でそんなイジワルを言う私のほうは、泣くふりをする彼氏が可愛くて仕方ない、と同時に少し心が痛む。なぜって、そのイジワルは100%嘘というわけじゃないからだ。
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私の友達と、彼氏とを会わせるのはあまり好きじゃない。
あまり話が合わないというか、共通の話題自体あまりないから、長い時間、楽しい雰囲気を維持するのが難しい。
私の友達といえばみんな30代半ばだし、社交術にたけているから、話題も豊富で相手にあわせるのが上手。最初の1時間くらいなら、彼氏くんに興味を持つそぶりでいろいろ質問したり、どうでもいいような彼氏くんの話に熱心に耳を傾ける様子を見せてくれる。
彼氏くんにはそのへんの見分けがつかない。とても素直でいい子だし、お母さんや年上の兄、姉たちに可愛がられて育ったから、自分に周囲の注意が集中するのが当然だと思っている。
でも、友達の立場になってみれば・・・女友達の彼氏なんてどうでもいい、というのが正直なところだ。どんなにかっこよくたって自分のものじゃないんだから意味なし。自分のものどころか友達の彼氏なんだから、世界中で一番可能性なし。ほんと意味がない。別にかっこよくなければさらに興味なし。自分に彼氏がいなかったら興味なしをとおりこえて苦痛。なんで仲良い二人を目の前で見てご飯食べなきゃいけないのか。彼氏がいなければ女同士の話で盛り上がるところを、それも全然できないし。
そういう友達の無関心をとりつくろった社交的会話を橋渡しする私も、けっこう苦痛。ああもう、さっさと食後のコーヒーを飲んでお金を払って帰らなきゃ、ってそればかり考える。
そうやって早めに友達と3人でのランチを切り上げて帰ってきたら、二人きりになったとたん、彼氏がすねてしまった。「・・・美樹ちゃん、友達が一緒にいると冷たい」「二人の会話の輪に入れなくて寂しかった・・・」「俺に関係ない話をしたそうだった」・・・ええ、そのとおりです、するどい、彼氏くん。
彼氏の気分を修正するのに、とびっきりの優しい言葉をいくつもと、赤ちゃんをあやすような甘い甘い慰めのキスとハグが、かなり長めに必要だった。
でもいったん機嫌を直すと、もうすっかりいつもの可愛い彼氏くんに戻るのが彼氏のいいところ。私も彼氏の機嫌の直し方は心得ているので、雰囲気をもとに戻すのは時間の問題とわかってはいるのだけど、ちょっと一苦労、仲直りしたあとひそかにため息。
あまり悟らせないように気をつけてはいるけど、やっぱり彼氏と二人きり以外で会うのがあまり好きでないことはばれているようだ。二人でショッピングというのも、私にはけっこう面倒なイベント。私は買い物は一人でする主義。これぞ!という一枚の服を買うのはいつも真剣勝負、人を待たせながらできることではない。男の子なんて論外、お洋服のお買い物は舞台裏のようなものだもの・・・
彼氏は自分の服を私と一緒に選ぶのが大好きなようだ。試着室の外に私を待たせて、服を着ると一緒に中に入って、鏡を見ながら意見を言ってもらうのが楽しいらしい・・・鍵をかけた試着室の中でキスしたり、襲うフリをしたり、はお約束。アメリカの試着室は膝から下くらいが外に見えていて、何もできないようにはなっているのだが。
たまにならいいんだけど、お出かけといえば「一緒にショッピング」だと・・・何度目かにはさすがに疲れてくる。一度「車の中で待っていていい?いそいで買って帰ってきて」と言いかけたら、言い終わらないうちに泣き出しそうなほど悲しそうな顔をされたので、あわてて「冗談よ!ごめんね」と外に飛びださなければならなかった。
とにかく、ひとことでまとめると、「ベッドで二人きりで過ごすのには最高の相手。それ以外はあまり楽しくない」。
というわけで「俺の体目当て?」という質問は、かなり核心をついていて、実はちょっと恐かった。
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