結婚と自由と婚約破棄
26歳で最初に婚約したあと、重症のマリッジブルーに陥って「結婚したくない」と会う人ごとに言っていた頃のこと。「・・・止めるなら、今のうちだよ。籍を入れてからじゃ遅いよ」と私に言った男の子がいた。彼は当時の会社の同期で、既婚者。彼の場合、当時の奥さんと結婚する前から、つきあっていた別の女の子がいた。
彼にとっては、長年つきあった奥さんのほうが本命、別の女の子は一時的な浮気のつもりだった・・・のだが、結婚したあとになって、「やっぱり彼女のほうが好きだ、忘れられない」ってことに気が付いてしまったと言う。
そりゃ逃した魚が大きく見える心理ってやつじゃないの?なんてよく話していたのだけど、彼にとっては深刻な問題だったようだ。転勤になって彼女から距離的に離れてしまったこともあって彼の気持ちは盛り上がる一方、ところが女の子のほうは気持ちの切り替えが早く、けっこう吹っ切れて他の男の子たちとデートしているようす。
すると彼のほうはまるで自分が足かせをつけられ、自由がなく、飛び立って行く彼女を見ながら何もできない、という状態になってしまったようで、結婚してしまったことを激しく後悔し、自由を阻む入籍というものを心から呪った。
そんな彼からの地方からの電話、「今のうちだよ・・・」は、疲れ果てた声で、失った自由を私に託すかのような切実さにあふれていた。
数カ月後、「あ、あのねえ、ほんとに婚約解消しちゃった。籍を入れてからじゃ遅いって適切なアドバイス、ありがとね!!」と電話で元気に報告した私。・・・婚約解消はそれなりに大変な出来事だったものの、夢中だった元彼のもとに戻れて私は一時的にとってもハッピーになっていたのだ。
電話の向こうの彼は絶句した。「ま・・・まじで?本当に解消しちゃったの?俺があんなこと言ったから?責任感じる・・・」と、かなりびびっていた様子だったのだが、もちろん、それだけじゃないよー!と笑って答えると少し安心して、つぎに出てきた言葉は「いいなあ・・・俺も籍入れる前に気付いてれば・・・」、心からうらやましそうな口調だった。
私は結婚したことも離婚したこともないので、そういうことを経験した人の大変さというのは想像がつかない。きっとはかりしれないものがあると思う。結婚の数倍はエネルギーを消耗するっていうけど、結婚だけなら途中まで準備したことのある私には、「あれを最後までやった場合の数倍かあ・・・」ってことでやっぱりはかりしれない。
一方、「婚約破棄」と言うと、けっこうオオゴトのような響きがあるけど、私自身の経験では、申し訳ないんだけど、おそらく離婚とは比べようもないほどに、大したことではないような気がする・・・もちろんそれは、言い出した私のほうから見れば、という意味なのだが。
人によって状況は異なると思うが、私の場合、2回とも相手と一緒に住みはじめたりはしてなかったから、引っ越しとか、共有している物の整理・・・などの必要も一切ないし、2回とも両親同士が遠く離れた場所に住んでいたから、あとで気まずい思いをすることもなかった。
1回目の場合は、両親の顔合わせが済み、婚約指輪をもらい、式場を予約し、新婚旅行を予約し、会社と親戚に報告した、くらいのタイミングだった。
でも、婚約ってまだまだ、本人同士の問題の段階なのだ。婚約破棄したら相手の親に「すみません」とか謝るかというと、私の場合は全然そんなことはなくて、それぞれ本人が親に伝えるのみだった。
結果的に、相手の両親に会ったのは、婚約直後の顔合わせのときが最初で最後となった。・・・あのときは「この人が私の姑・・・」と厳粛な気分で考えてたのになあ・・・一瞬にしてただの他人になってしまった・・・なんて、婚約破棄後、呑気に考える私だったが、仮に直接会って話さなければいけない機会でもあったら、本当に申し訳なくて顔も上げられないような状態だったに違いない。
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