彼氏と熟女と私の三角な関係
私と彼氏と45歳の熟女との微妙な関係、、、45歳の女性は、私の彼氏から恋心を焦がされているわけでもないと感づいたとき「世話好きおばさん」の立場に徹することにしたように見えた。
――私は、恋愛初期において男性に自分の気持ちをわざわざこと細かく説明したりしない。「何を考えてるんだろう」「僕を好きなんだろうか」と、いろいろと思いめぐらす心の動きが、やがて離れがたい恋心につながっていくものだし、そもそも女性を追う楽しみを男性から自らとりあげてしまうのも不粋ではないか。
しかし、それがある意味裏目に出てしまった場合。不安になった彼氏は、お母さんのように頼っていた熟女に、私とデートしたこと、どんな話をしたか、どんなに恋いこがれているか・・・を、ことごとく報告していたらしいのだ。
つまり、彼氏の好きなのは私。その私との恋の悩みを45歳の女性に相談していたという三角関係なわけ……そんな話を聞くたびに、熟女の嫉妬心はつのっていったのに違いない。
私はこのとき彼女の心境について思いが至らなかったと反省している。思いやりがなかったというのではない。警戒心が足りなかったという意味だ。
離婚後、子供の世話を一手に引き受け、忙しい仕事の日々、しかし元来が男好きの彼女にとって生活はどこか寂しかった・・・そこへ可愛く慕ってくれる若い男の子、彼氏の登場!と、がぜんやる気になっていたところを、横から自分よりもう少し若い女、私にかすめとられた(かすめとってないけどさ。私は自分から一切何もしてません。彼氏が追うままに任せていただけだ!)。
「嫉妬」には二種類の感情があるという。ひとつが、自分にはとても無理な憧れの対象を「うらやましいな」と思う気持ち。もうひとつが、「本当なら自分が手にいれたはずのものを、他の人が手にいれてしまったときの、その人に対する嫉妬」であり、後者のほうがずっと苦しく、強烈なものなのだそうだ。
つまり、自分も好きだった、うまくいきそうな気がしてた、という相手が、自分以外の人とつきあいはじめてしまった・・・というのが最も苦しい嫉妬となるわけだ。
私の場合、この最も根深いタイプの嫉妬を、熟女からもろに受けることとなってしまったのだ。
しかしこのとき、私は自分のことを考えるのが精いっぱい・・・日に日に惹かれていく彼氏のこと、一方で婚約したばかりで結婚準備を進めつつあった元婚約者のこと・・・、何より始まったばかりの恋愛で頭がいっぱい、熟女の心境を推察する余裕などまったくなかった。
そのため、世話好きおばさん風を装う熟女の態度に、すっかりだまされていたのである。
熟女は、「二人の行く末が心配!」と言っては、「どうなの、会ってるの、これからどうするの」と何かと詮索をかけてくる。私は、職場の先輩に恋愛事情をあまり話したくないので適当にかわす。しかし熟女の詮索攻撃には勝てず、気が付くと次に会うのはいつか、とか、週末の予定は何か、とか巧妙に聞き出されていることがあった。まあ私も恋愛初期でちょっと気が緩んでいたということもある。
この詮索の理由がわかったのは、少し後になってからのことだった。例えば、彼氏は割と自分の都合でスケジュールを組める仕事をしているので、「来週の金曜日はオフ」と平日の休みを事前に決めたりすることがある。熟女はそんな予定を彼氏から聞き出す。そして私にも、「彼氏くん来週金曜休みなんでしょ?会うの?どこいくの?どうするの?」と詮索をかける。その結果、「会うのは夕方から」という情報を入手する。
金曜日当日。夕方、彼氏の部屋に行き、「今日何してたの?」という話になると、彼氏が「んー、別に・・・あっそういえば**さん(熟女)が気つかってくれて、お昼ごちそうしてくれてさ!」と呑気に答える。なんと熟女は、彼氏が一人になる唯一の時間を狙い、仕事さえ休んで会いに来ていたのである。
こういう出来事は1度や2度ではなかった。相談にのりながら私と彼氏のスケジュールを聞き出して、2時間でも隙間があけば入り込んでこようとする。電話をかけて、「どうなの、二人の状況は」といかにも心配げにたずねてきては、たっぷりと情報収集して、自分なりの彼氏攻略計画を立てていたらしいのだ。彼氏を起点に双方向性ではない三角関係が続かれていた。
こういう行動を異常だとか迷惑だとか、この時点ではっきりと認識しなかったのは、熟女を慕うのは彼氏の勝手なので私も「あの人にあまり相談しないでよ」と言うようなことは控えていた、それにもともとは本当に世話好きで優しい人だったから、他意があってやっていることとは私も思わなかったためである。
しかし今振り返ってみれば、この時期、熟女があきらめていたように見えたのはあくまで表面的な部分だったのだ。自信過剰、スーパーポジティブ、事実を自分のいいように解釈して信じ込んでしまう異常性格の彼女が、簡単に「あっそうか!彼氏くんとは何も起こりようがないんだ」と納得するわけがなかった。彼女は、「相談にのる」という名目のもと、彼氏と連絡をとり続け、何かと誘いをかけつづけ、そのうちいつか自分のほうを好きになる、と信じていたようだ。
やがて例によって彼女は事実を婉曲し始めた。自分から勝手に「つらいでしょ。話においで。夕食に・・・を作ったから食べにおいで」と彼氏を誘う、食事を作っておしかける、という行動をとっていながら、それが彼女にかかると、「もう彼氏くんはね、美樹ちゃんを好きだって言いながら、結局私のところに来ちゃうのよー。困ったわ。誤解されても嫌だしね。でもほんとしょっちゅう電話してきたり家に来たりするからー」、ということになってしまうのだ。そしてそれを周囲にも言いふらすから、私の仕事仲間と彼氏の職場では、一時期すっかり「彼氏と熟女がつきあっている!」という話になっていたようだ。そこに私が加わり、まさに三角関係だった。
彼氏のこととなると熟女の様子が変だ、と私以外の数人も気付きはじめたのはこの頃だった。どこを見ているかわからないような、変に興奮した目つきで、「半年前**君も、相談にのってるうちに私を好きになったし」と独り言のようにつぶやく。考えがそのまま口に出てしまったという感じだ。私はそばであっけにとられて(先輩、それって彼氏くんもそのうち、って言いたいんですか。なんなんですか!)と内心叫んでいるのだが、次の瞬間熟女は何もなかったように別の話を始める。本当にどこか変なのだった。
やがてある日別の仕事仲間が、仕事先で一緒になったとき私に駆け寄ってきて話しかけた。「ねえ、もう**さん(熟女)に、彼氏くんの話一切しないほうがいいよ!だって・・・あの顔、見た?!」
あの顔って?と聞き返す私に、同僚は心から怯えたような表情で答えた。「あの人、彼氏くんの名前が美樹ちゃんの口から出た瞬間に、表情が変わるんだよ!ぴくってして、そのあと、めっちゃ恐い目で美樹ちゃんのこと見てるんだよ!きづかなかった?」
・・・気付かなかった・・・、それは熟女が私の真横にいたからだ。私が彼女に話しかけるために顔をあげると、熟女は表情をとりつくろって普通の顔に戻るので私にはわからなかったのだろうと同僚は言った。
やがてその恐ろしい憎しみの目に、私も正面から出会うときがやってきた。
なんとか彼氏とつながりを保っていたかったらしい熟女は、家でパーティを企画しては彼氏を呼んでいた。彼氏を呼べば、私もついてくるのだが。その日も、仕事の用事もないのに、熟女は彼氏の職場を直接訪れ、パーティの日程の打ち合わせなどをしていた。そこで彼氏は、美樹さんも連れていく、でも美樹さんは翌朝早くから仕事だから、この時間にしてください、などと、何よりも私優先!という答え方をしてしまったらしい。
その直後、熟女は私のところへやってきた。私はちょうど仕事の追い込みで、コンピュータの画面から目を離せないまま、「彼氏くんがね、美樹さん、美樹さんってそればっかりでさ。優しいよねえ」とか茶化している熟女の言葉に半分耳を傾けていた。
そして相づちを打とうとして、彼女の方に顔を向けた。・・・そこにあったのだ。めらめら燃える憎しみの炎が!!
本当に恐かった。濃いピンクのアイシャドウが塗られたまぶた(自分の最盛期の80年代でメイク方法が止まってるのだ)の下の目が、真っ赤に充血していた。両目の端がキリリとつりあがり、突き刺すようなまなざしで私を見つめていた。意地悪な姑が若い嫁のあら探しをするように、その目は細かく左右に震えながら私の顔の頬や目、額などをなぞっていた。
一番恐かったのは口で、だだをこねる子供のようにゆがんでつきだされていた・・・この人は、欲しいものは何でも手に入ると信じていた我侭な子供のまま、人格が変わっていない!そのとき直感でそう思った。それは本当に何よりも恐ろしい感覚だった・・・私は45歳の子供を相手にしてるんだ。何をされてもおかしくないかもしれない。
が、そこまで考えたのはほんの一瞬のことだった。感情をむき出しにした表情を見られてしまったことにあわてた熟女は、またすぐにとりつくろい、笑顔を浮かべて「じゃあ、またパーティで」と快活に言って去っていった。しかし私は恐怖にとらわれたまま返す言葉もなく、しばらくは仕事も中断してその場で凍り付いていたのだった。
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